ぼくらは綴っているので

男ふたりの気ままな雑記

「ヒーロー。」

目が覚めると、知らない場所にいた。

それは一般的に想像される宇宙船の中のようであり、時代設定が未来のSF映画に登場する秘密基地の中のようであり、

とにかく銀色のコンピュータやら青と緑が点滅するパネルが程度よく散りばめられた部屋であった。

目の前にはマスクを被った男女が4名座っており、それらと対面する形でぼくも座っていた。

眼前の男女はそれぞれ赤、黄、緑、ピンクのそれぞれ独立したデザインのマスクとスーツを着用しており、そのうちピンクのマスクを着けている者のみが女性であった。

「では、自己紹介とこれからの任務について説明しよう。」

4人のうちの赤いマスクを被った男が口を開いた。

彼の話によると、彼らは「平和戦隊ゴセイダーズ」というらしく、悪の組織「破壊軍団ザーク」を滅ぼすため日々活動中だという。

一方「破壊軍団ザーク」とは地球滅亡を目論む怪人たちの団体であるが、団体とはいっても現在は「ゴセイダーズ」の精力的な活動のおかげでその数を10体ほどとしているらしい。

団員数を減らされたザークは地球の子供を誘拐し、怪人へと変身させる手術を行う事で数を増やし、世界征服を企んでいるらしかった。

そして先日、共に活動していた「ゴセイブルー」が殉職したため、ぼくが新たに「ゴセイオレンジ」となり今後彼らと共に活動していく事になるという答えが返ってきた。

「ゴセイダーズは5名での活動が決定づけられているからね。君もこれでゴセイダーズよ仲間入りだ。安心したまえ、給料は良いしプライベートの時間も大きく確保できる。それに秘密裏な活動ではあるが誇れる仕事だよ。」

ゴセイレッドはそう言うと握手を求めてきた。

彼にはぼくがこの人達と活動する事を断らない自信があるようなふしがあった。

「仕事内容と給料について教えてください。」

未だ不安なぼくは彼にそう質問した。

「ザーク達は月に一度子供をさらいにやってくる。そのタイミングでの彼らの活動の阻止が我々の任務さ。それ以外の時間はザークの出現時間と場所の特定作業をしているよ。月に一度のザーク戦を除けば忙しい仕事ではないね。

給料は日本政府から「平和維持活動費」の名目で月に一度、1000万円ほど受け取っているよ。我々5人で100万円ずつ頂戴し、残りの500万円はぼくらの活動費に当てているよ。」

どうやら激務ではなさそうであるし、給料面も高待遇であった。

「分かりました。ぼくの前任のゴセイブルーさんが殉職したらしいですが、安全面はどのようなものですか?」

続いて現在唯一の懸念事項を質問する。

「前ブルーについては残念だったよ。我々ゴセイダーズ100年の歴史で唯一の事故さ。彼はルールを守らないヤツだったからね。でも君はきっと大丈夫さ、ルールさえしっかり守れば安全な仕事なんだよ。ルールは大事さ、形を成し続けるには必ず御触れがいる。そうだろう?」

そう言ったゴセイレッドの声には少しばかりも悩みや迷いがないようなものに感じた。

「分かりました。あなた達の活動を共にさせていただきます。」

こうしてぼくは晴れてゴセイダーズの一員となり、彼らと共に仕事をするようになった。

彼らと過ごして1週間ほどした頃、毎朝のミーティングで「本日中にザーク出現の時刻と場所のメールが来ます。そしてその後屋外にて実務作業になります。」と伝えられ、その数時間後に基地はメールを受信した。

「本日午後4時より場所○○にて、破壊活動あり。」

「よし、向かうぞみんな。」

移動中、「なぜメールの受信と本日の活動を予測できたのですか?」と質問すると「ああ、ここ90年はそういうルールだからね。」とグリーンに言われた。

あまり口を出すな、という印象があった。

現場に到着するとザークの怪人が幼い少年を抱えていた。

子供は劈くような泣き声を上げている。

「また幼い少年を拐おうとしているのかザーク!お前らの野望を今日止めてやる!」

レッドが意気揚々と声を上げる。

「出たなゴセイダーズ。そうはさせない。我々はこの少年を怪人へと改造し、我々の仲間にするのだ。」

怪人は細く、武装もしていない。

素人目からしても簡単に倒せるようなものであった。

しかし、彼の声には「やられる」という不安や、ましてや「戦う」という意気込みすらないように思えた。

「くそう、現在10体いるザークは不死身の体を有しており我々が今ヤツを倒す事は不可能。そして彼らは新たに怪人を増やそうとしている、ならば今我々ができることは!」

ゴセイレッドは抑揚のない声でそう言うと続けて「今月の担当はイエローだったね。」と言った。

イエローは「はい、そうです。では行ってきます。」と軽く返事をし、怪人から子供を受け取ると、懐からナイフを出し子供の胸にそれを刺した。

胸を穿かれた少年と、ぼくはまるで何が起きているか分からないという様子だった。

その後胸にナイフを沈めた状態で死亡した少年とを怪人が回収し、その作業が終わるとゴセイピンクが怪人に厚く膨らんだ封筒を渡し「今月の500万円です。」と言った。

怪人はそれを受け取ると、先程イエローが殺した少年が入った袋と共に自前の飛行船に乗り、どこかへ飛んで行った。

遠くに消えゆく飛行船に向かって僕以外の4人は揃った口調で

「くそう、90年前に10体までに減らし地球を救ったが、今回もまた彼らを全滅させることはできなかった!しかし、尊い犠牲を払い、今月も彼らの野望を食い止めたぞ。我々はまだ諦めない!」

と吼えた。

帰り道、ゴセイレッドはぼくの肩に手を置き、また自信に充ちた声で「ブルーのようにはならないよう、変な事を考えずにルールは守ってくれよ。」とぼくに言った。

僕の肩に置かれた100年の歴史を感じた。